江崎

上に交わりて諂(へつら)わず、下に交わりて驕(おご)らず、すなわちもって為すこと有るべし。

< 2025年05月 >
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魚料理を満喫

頭から尾の先までおよそ二〇センチの小鯛の煮付け。願ってもないアテ。貧乏酒飲みの常ながら値が気になりかけるが、美しくしかし地味に慎ましく煮上げられた姿を見て、そんなせせこましいことはどうでもよくなってしまう。「これこれ、こんなのが欲しかったんだ」。尾頭付きの鯛に勝る肴があろうか。
魚料理を満喫


この歳になると、海のものに嗜好が向かうのは何故だろう。日本人の血? 素直にそれに従い、深くは問わない。

――。

三津浜には数多くのお好み焼屋があると聞いていた。広島のお好みと同じ作り方だが、かの地よりも歴史が古いという。それを目当てに港町に入っていった。

幾軒か店先を窺いながら経めぐったあと。「一品料理、お好み焼」のノレンにひかれて、暑さにネをあげた身はふらふらと、もうろう状態で戸を開けるのだった。それまでにポツリぽつりとあった寿司屋でもない、創作魚料理でもない、天ぷらでもない。そしてお好み焼きだけ食べることもできない。「一品料理」の文字に期待を込めて。

果たして、当たり。「酒がちょっと飲みたいんだけど」と言うと、「奥の棚に肴があるから適当に出してくださいネ」と、お年寄りの女店主が初見の客に優しく気安く示してくれるのがうれしかった。

小鯛の煮つけと、何の魚か大ぶりの切り身の煮たのが二皿ずつ入っていたので、鯛を取り出した。

箸を入れるごとに見えない節に沿って身が分かれ、気持ちよくほぐれ、しっかりと箸先に掴みとれる。この快感。なにより、一片ひとひらの味わい。尾の方の身の薄いところは醤油味が強く感じられ、厚い背のところは鯛の身そのものの味。煮え具合、味の加減がちょうどいい。

店を開いて四〇年経つという。朝九時過ぎから店を開けている。むかしは夜更けの三時まで開けていたというから驚く。寝る暇がないではないか。お歳は七〇を少し越えたところ。

その仕事を想像すると気が遠くなる。客とのやり取り、勘定付けのかたわら魚の下ごしらえから切り分け、煮上げの調理、手間のかかる「広島焼き」の工程……。客が去れば後片付けも一人でする。
魚料理を満喫


鯛が終わりかけるころ、剣先イカが煮上がった。すかさず「それ、ください」。卵をはらんでいてねっとりとして旨い。醬油の加減の控えめなことは鯛の煮つけと同様なこと、言うまでもなくて。

野菜が食べたくなったので、目の前にある長茄子を指すと、「じゃあ、塩もみにしましょうか」。トイレに行っている間に出来上がっていた。薄く切って塩をまぶして揉むとばかり思っていたのが、まるで漬物のような仕上がりなのに感心してしまった。塩と水をどのように使うのだろう。ほんの二、三分の間に。

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